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第五回はとなび「生涯スポーツと Well-being ~北海道教育大学岩見沢校の取り組み~」

      2023/10/27


"はとなび" とは?https://hatogaoka-dc.jp/はとなび



講師紹介

ご多忙の中“はとなび”第五回の講師を引き受けてくださったのは、北海道教育大学岩見沢校のキャンパス長であり、スポーツ教育学を専門とする教授の山本理人氏です。
「生涯スポーツとWell-being」というテーマで、人生100年時代におけるスポーツの重要性について考え、スポーツは単に運動や健康に関連するものだけでなく、豊かな人生と幸福に深く関連していることをお話しくださいました。

この記事では、その一部をご紹介させていただきます。

 

 

「スポーツ」の起源と変遷

まず最初に、スポーツの起源について、言葉の変遷や意味の変化についてお話ししてくださいました。

スポーツという言葉は16世紀以前には、身体的な移動や楽しみ、気晴らしを指していました。
これは現在で言う“レジャー”として捉えられ、評価や楽しみを追求する行為として広く認識されていました。

そのため当時は、コーヒーを飲んだり歌を歌ったりすることも「スポーツ」に該当していました。

それが16世紀頃から徐々に若い男性の楽しみ、体力を活かす場として発展していきました。
そして近代スポーツと呼ばれるものは、19世紀に競技的性格を持つ身体運動や組織的なゲームとして発展し、勝敗が強調されました。

この変化は、英国のパブリックスクールやエリート校における若い男性アスリートたちが、激しい身体活動や競技を好み、それに合ったスポーツが発展したことに関連しています。
このように、初期の近代スポーツは若者の男性を対象に設計されており、女性や高齢者は考慮されていませんでした。
それが後に学校教育の一環として普及し、近代スポーツの制度化と普及につながりました。

そして、現代ではスポーツは多様な人々が楽しむための活動として再定義され、多くの人々がスポーツを通じて楽しみ、健康を維持し、社会的つながりを築いています。

 

 

「スポーツ」の多様化

近年では、スポーツのあり方がさらに多様化しており、新たなスポーツが近代スポーツの枠組みを超えて生まれています。
これにより、スポーツにおける関わり方も多様化しており、伝統的な「スポーツ=身体的な競技」という概念に疑問が投げかけられています。

近代スポーツが競技性や勝敗を強調する傾向がある一方、新しいスポーツの形態では、競争性や身体的な要素を排除し、楽しみや共感を重視しています。スポーツの「脱スポーツ化」が進んでいるのです。
これにより、「ゆるスポーツ」などの新たなスポーツが登場し、異なる人々の楽しみ方をサポートしています。

↓世界ゆるスポーツ協会HP

https://yurusports.com/

 

競うのではなく、楽しむ。この点においては、16世紀以前のスポーツの考え方に戻ってきていると言えます。

さらに、電子スポーツ(eスポーツ)が注目を浴びており、プロも登場しています。
電子スポーツは運動を伴わないため、一部で運動不足や健康への懸念が生まれていますが、特に重度の障害のある人々にとっては新たなエンターテイメントの機会となり、プロスポーツ選手としての道も拓かれています。このことからも、「スポーツ=身体を動かす」という定義も崩れつつあるのです。

こうした変化は、社会や科学技術の進歩と結びついており、近代スポーツの枠組みを超えて楽しむ方法や感動する機会が広がっています。
従来のスポーツ概念にとらわれず、高齢者や女性、障害のある人々を含む多様な人々が楽しみ、喜び、感動できる新たな風土が形成されつつあると山本氏はお話しくださいました。

 

スポーツは「やる」だけじゃない

スポーツの意味の多様化に伴って、スポーツに対する関わり方も多様化しています。

スポーツは単に「やる行為」だけでなく、その他多くの要素で関わりが増えており、新たな形態が作り出されています。

 

「観る」スポーツ

スポーツには「観る」という要素があります。
自分が応援しているチームが優勝したり、日本人が世界で活躍しているのを観るとうれしくなりませんか?
そういった応援やサポーター文化は、スポーツを観戦しながら生きがいや喜びを感じる要素となり、特定のスポーツチームや選手を支持することで、人々のWell-being(幸福感や幸福度)に寄与しています。
スポーツ観戦は、感情的なつながりや楽しみを提供し、その価値は今後ますます高まると考えられています。

 

「ささえる」スポーツ

スポーツを直接的に行わない人々も、「ささえる」という形でスポーツに関与しています。
例えば、スポーツボランティアはスポーツを実施する人々をサポートする役割を果たし、喜びや生きがいを見つける機会となっています。
スポーツに参加しない人々にとっても、スポーツは社会的なつながりや達成感を提供し、Well-beingに寄与しています。

ご紹介した他にも「知るスポーツ」「つくるスポーツ」など、現代ではスポーツに対する関わり方が多様化しており、スポーツは単なる身体的な活動だけでなく、精神的な満足感や喜びを提供する重要な文化となっています。
スポーツの多様性と個別性が、幅広い人々にとってWell-beingを向上させる要素となっているでしょう。

 

生涯スポーツと Well-being

本講演のテーマでもある「生涯スポーツとWell-being」について、ご紹介させていただきます。

スポーツには、個々の健康や安寧・精神的な成長・社会との結びつき・ドラマティックな体験、などの要素があり、これらの要素はWell-beingに寄与する可能性が高いと考えられています。

Well-beingとは、主観的な幸福感や生活満足度を指す用語で、
「ポジティブ感情・人との関係性・生きていく意味・何かに没頭する・何かを達成する」といった五つの要素で構成されています。
スポーツはこれらの要素を促進し、嬉しさや楽しみ、感動などのポジティブな感情を得る機会となるのです。

また、生涯スポーツとは、年齢や性別、障害の有無に関係なく、個人がライフステージに合わせてスポーツを楽しむことを指しており、幸福度の高いライフスタイルをデザインする要素となっています。

スポーツの関わり方は、老若男女や障害の有無に関わらず、すべての人々にとって楽しいものであり、個人の能力や興味に合った形で自発的に行うことが重要だと山本氏はお話しくださいました。
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金沢工業大学心理科学研究所HPより

青少年のスポーツ環境の現状

上記のことを踏まえ、現在の青少年のスポーツ環境について考えます。

この岩見沢市の現状として、年々、部活動が減少しています。
というのも、生徒数の減少、指導者の不足により、スポーツをするチームをつくれないのです。
現実問題として、市内の全ての中学校にはサッカー部がありません。
中には、部活動が一つしかない、という中学校もあります。

また、学区によって中学校が決まるため、中学校を選ぶことはできません。
そのため、生まれる場所によっては入れる部活動の選択肢がかなり少ない、というのが現状です。
以前は当たり前にあった野球部・サッカー部・バレー部・バスケ部…それらのスポーツの経験を、したくても出来ない子どもがいる。
生涯スポーツのお話がありましたが、それが中学校の時点で諦めざるを得ない現状があるのです。

また、教師への負担も課題です。普段の学校業務に加え、放課後・土日の部活動業務を兼務する仕組みは限界を迎えています。
さらに、受け持つ部活動が自分の専門分野ではなく、全くやったことのないものであることも少なくありません。
少なからず、このミスマッチは起こっています。

これらの課題を解決する方法の一つとして注目されているのが、部活動の地域移行です。
ただし、「学校の先生が大変だから地域に移行しよう」という単純な理論では何も解決しない。と山本氏は言います。
指導者問題があります。地域に移行しても、そこに指導者がいなければ、子どもたちの望むスポーツ環境を実現することはできません。
その解決には学校の枠組みを超えて、公務員や民間企業のそういった資格や経験を持っている人材が、指導者として相応の報酬を受けて活躍できる仕組みづくりが必要です。

この大きな課題の解決のために、山本氏は次のようなことに取り組まれています。

 

 

北海道教育大学岩見沢校の取り組み

山本氏がキャンパス長を務める北海道教育大学岩見沢校の取り組みの特徴について、子供や次世代を対象とし、芸術・スポーツとWell-being(健康と幸福)の関連に着目している点だとお話ししてくださいました。
その取り組みの詳細の一部をご紹介させていただきます。

 

Caps Child

スポーツに関するプログラムの一つに、「CAPS-Childプログラム」があります。

CAPSとは、creative・active・prayer-oriented・skillfulの頭文字をつなげたものです。
その意味は、
・creative 「物事に対して柔軟に対応することができる創造的な思考判断」
・active 「運動や様々な事柄に対して活発で積極的に取り組む態度」
・prayer-oriented 「自らの意思で夢中になって物事に取り組むプレー思考性」
・skillful 「どのような運動でも器用にこなす巧みな身のこなし」
であり、これらを幼少期にスポーツを通して培うことを目的としたプログラムです。

 

 

 

この考えに基づき、スポーツを特定しないで様々な身体活動を経験するようなプログラムとして、ドイツで考えられたバルシューレというものを行っています。
多様なボールゲームの中からヒントを得つつ、楽しみながら学習するプログラムです。

運動は認知機能向上など、脳にも良い影響を与えるという科学的データがいくつもあるので、バルシューレは発育期における脳の成長にも効果的なものと考えられています。

↓Sports Life Design Iwamizawaのバルシューレ教室HP

https://ballschule.jp/iwamizawa/

 

Nチャレンジ

Nチャレンジは、子供たちの敏捷性を向上させるプログラムで、敏捷性を評価するだけでなく、競争要素を取り入れて楽しみながら運動能力を向上させることを目的としています。

方法は、N字型のコースを、直線ダッシュ・ミニハードル・スラロームの3種類で走り、タイムを測定するというものです。(図参照)

北海道教育大学岩見沢校では、JOIN A LIVEや、日本ハムファイターズの試合後などにこのNチャレンジを実施し、普及に取り組まれています。

 

 

 

あそびプロジェクト・芸術スポーツキャラバン

遊びプロジェクトは、音楽・美術・スポーツの原点である「あそび」をテーマに、岩見沢市や地域住民と連携しながら、地域文化の創造と発展に寄与することを理念に、各専攻による体験イベントなどを開催しています。
音楽専攻による楽器体験や、美術専攻による画家体験、スポーツ専攻によるボルダリング体験などがあります。

芸術スポーツキャラバンは、学生が道内各地をまわり、コンサートや美術展、先程ご紹介したNチャレンジなどを開催する取り組みです。

このように、あそびプロジェクトや芸術スポーツキャラバンなどの取り組みにより、芸術とスポーツに触れる機会を提供しています。
また、SLDIという地域スポーツクラブの支援やスポーツ教室の開催を通じて地域社会に貢献されています。

 

 

北海道教育大芸術・スポーツ文化研究所の設立

NPO法人「北海道教育大学芸術・スポーツ文化研究所」は、岩見沢市の健康経営サポートや多くのサービス提供を行い、芸術とスポーツをビジネスとして発展させる仕組みを構築するために、様々な事業に取り組まれています。

 

理念

「あそびは文化の源」「こどもも、おとなも全力であそぼう!」を合言葉に、
北海道教育大学の資源の活用を中核として、芸術やスポーツに関わる多様な活動を推進し、
人々の豊かな生活の実現とまちづくりに貢献する

以上の理念のもと、「自分がやりたいからやる」を推進し、人々のwell-being に貢献することを目指しています。


ビジョン 〜大学では出来ないことを〜

「つくる」を育む  〜ヒト、モノ、コトの共創〜
  「つくる」:新たなものを創造する
  「育む」:次世代(学生を含む)人たちを支援する
  「ヒト」(をつくる):人材を育成する
  「モノ」(をつくる):作品、製品、プログラム等を開発する
  「コト」(をつくる):イベントやプログラムを実施する
  「共創」:一人ではできないことをみんなでやる

山本氏はビジョンについて、大学の資源だけではなくて地域とも協力し、大学で出来ないことに挑戦する法人として歩み出していきたい。とお話ししてくださいました。

 

目的

広く一般市⺠を対象として、大学の研究成果を地域に還元していく活動として、
芸術・スポーツ文化を地域に根付かせるための事業、
様々な芸術・スポーツを体験できる場所を創造する事業を行い、
市⺠が芸術・スポーツを楽しむことができる場を提供することを目的とする。

 

つまり、北海道教育大学での研究成果を、北海道教育大芸術・スポーツ研究所が活用し、運営・提供する。
その実証結果を大学にフィードバックすることで、さらに研究が深まる。さらにそれを研究所に還元する。というサイクルがうまれます。
その上で行政や民間と協働することで、市民が芸術・スポーツを楽しむことができる場を増やしていくことが出来ると、お話ししてくださいました。

 

活動内容

• 保健、医療又は福祉の増進を図る活動
• 社会教育の推進を図る活動
• まちづくりの推進を図る活動
• 観光の振興を図る活動
• 学術、文化、芸術又はスポーツの振興を図る活動
• 子どもの健全育成を図る活動
• 経済活動の活性化を図る活動
• 職業能力の開発又は雇用機会の拡充を支援する活動


上記が活動内容の概要となりますが、まちづくりの視座で、実に幅広い活動であることがわかります。

その中の一つである、スポーツツーリズムについてご紹介させていただきます。
地域社会に貢献するためにスポーツや芸術を活用し、観光体験の質を向上させる取り組みです。

 

 

スポーツツーリズムによる流入人口の増加

 北海道の自然や食の魅力に、大学の資源活用することでさらに付加価値をつけ、インバウンドなどの流入人口の増加を目的とした取り組みがあります。

その一例が以下のようなものです。

・子どもの運動能力テスト × イベント・観光
JOIN A LIVE や球場でNチャレンジを行なったように、道の駅や観光地にも普及させ、ネット上でランキングを競うなどの競技性を持たせるプログラム

・アウトドアキャンプ × 外国語教育+環境教育
民間団体やアウトドアキャンプ施設と連携し、外国からの訪問者に日本の文化や自然体験を提供するプログラム

・日本文化体験 × ボルダリング × 日本語教育
子供が興味を持つような忍者文化とボルダリングを掛け合わせたプログラム

・サイクルツーリズム × 科学的知見(バイオメカニクス・運動生理学)
自転車人気の高い北海道で、サイクリングをスポーツ科学研究室の資源を生かして分析会などを行うプログラム

 

このように北海道教育大芸術・スポーツ研究所は、多くの連携団体と協力して、地域社会への貢献を推進し、観光やスポーツの分野で新たなビジネスモデルを構築することを目指しています。
そのために、北海道教育大学岩見沢校をハブとして、アウトドアスポーツ関連の資格や指導者の育成にも注力していくとお話ししてくださいました。

 

岩見沢校×COI -NEXT

また、北海道大学のプログラムであるCOI-NEXTに北海道教育大学岩見沢校が参加しており、心と体のライフデザインに焦点を当てて研究を行っています。
具体的には、中高生や大学生など若者を対象にした研究を行い、身体的データや認知機能、心理特性などの情報を収集し、Well-beingと芸術やスポーツの関連性を探求するための縦断的データを蓄積する取り組みも進められています。

 

岩見沢校×SIP

さらに、SIP(戦略的創造研究推進制度)において、人間中心の社会を実現し、多様な個人の幸せを追求し、新しい価値を生み出す社会である「Society 5.0」の実珸性を検討しています。

今までとは異なる社会の実現を目指し、実験や継承を通じて人々の幸福と豊かさを向上させる様々なアプローチの可能性が検討されています。

具体的に、北海道大学が学校教育における探究力、主体性、創造性、協働性を高める教育コンテンツの開発に取り組み、新たな学びの場やプラットフォームの構築に岩見沢校が協力する可能性が紹介されました。
この教育プログラムは特に運動とスポーツに焦点を当てており、地域の中で子供たちが主体的に学び、体験できる場を提供し、地域課題や環境問題にも取り組んでいます。

さらに、好奇心や探究心を探求し、地域で学びを提供するために子供たちのネットワークを形成し、大学生や地域住民がサポーターとなる場を作成する案もご紹介いただきました。

また、成人向けのリカレントプログラムが紹介され、アートやスポーツ、まちづくりなどのキーワードで学び直しの場を提供し、Well-beingを学びつつ専門性を深めるカリキュラムを構築する構想もご紹介いただきました。
NPO法人や大学を中心に資格や証明書を発行し、学習成果をネットワーク上で管理する仕組みを作り、主婦や成人が子供たちにスポーツや部活動を教えるサポートを行えるようにする社会が、実現されるかも知れません。

 

おわりに

山本氏の「生涯スポーツとWell-being  ~北海道教育大学岩見沢校の取り組み~」のご講演の一部をご紹介させていただきました。

生涯にわたりスポーツや芸術に触れることがWell-beingと深く関わっていることを、貴重な資料とあわせて大変わかりやすくご説明いただきました。

また、現在は青少年のスポーツに触れる機会の減少が深刻であり、その解決のため、NPO法人の設立により様々な連携をつよめて、地域のWell-beingへの貢献に取り組まれていることを学ばせていただきました。

地域連携をより一層強めるパートナーとして、今後とも宜しく御願い申し上げます。

この度、鳩が丘歯科クリニックの新たな挑戦である “はとなび” にお力添えいただき、また、素晴らしいご講演をいただいた山本理人氏に、深く感謝申し上げます。

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〒068-0828 北海道岩見沢市鳩が丘3-1-7
中央バス「幌向線」「緑が丘・鉄北循環線」岩見沢バスターミナルで乗車
「岩見沢市役所前」で下車。バス停から徒歩5分です。

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