第一回はとなび「知ってほしい!薬局管理栄養士のこと」
2023/07/06
"はとなび" とは?https://hatogaoka-dc.jp/はとなび
講師紹介
ご多忙の中“はとなび”第一回の講師を引き受けてくださったのは、なの花薬局労災前店 管理栄養士の若松友香氏です。
若松氏の「未病・予防に精通し、その方がその方らしく生きていくお手伝いをする」という想いが込められた講演内容を、一つ一つご紹介させていただきます。
略歴は以下の通りです
【略歴】
北海道文教大学人間科学部健康栄養学科卒業
なの花薬局労災前店にて管理栄養士として在職中
なの花薬局道北道東エリア認定栄養ケア・ステーション責任者
所属学会:日本在宅栄養管理学会
薬局管理栄養士とは
管理栄養士の勤務先としては全体の1%にも満たない薬局栄養士、そんな“薬局栄養士”の魅力は「未病・予防の考えのもと、地域の健康に関われること」とお話ししてくださりました。
薬局栄養士の主な仕事は、薬局を利用する患者様への「栄養指導」
・新しく血糖値の薬が増えてしまった。どうしたらいいだろう…
・健康診断で中性脂肪が高めと言われてしまった…
そんな患者様の悩みに、管理栄養士の専門知識に基づき栄養食事のアドバイスをしてくれます。
他にも、「なの花栄養だより」「なの花薬局健康ごはん」などの冊子を作製したり、
なの花薬局HPにて、
なの花ブログ
https://www.nanohana-ph.jp/blog/
健康と栄養に関する貴重な情報を豊富に発信されています。
生活に直結する“食”を、よりよくする秘訣を読んでみてはいかがでしょうか。
栄養相談の場では、病院の方針に従って食事指導
栄養相談の場では、病院(かかりつけ医)の方針を確認し、それに合わせて栄養食事指導を行います。
その後、病院に栄養指導報告書を提出します。
これは「すでに健康異常が出現している段階で、疾病や障害の重症化を予防することである “二次予防”にあたる」と若松氏は言います。
“未病”に向けた取り組み
イベント
一方で「そもそも病気にならないようにする、“未病”」のために、なの花薬局さんが取り組んでいることの一つにイベントがあります。
具体的には、
骨の健康などを測る健康測定会、
薬局栄養士が選んだ栄養補助食品の試食会、
高齢者でも安全に行える“椅子ヨガ”などの健康体操イベントを行なっています。
また、大願寺というお寺で開催された、健康料理教室のイベントについてもお話ししてくださりました。
これは「大豆とささみでガパオ風プレート」や「無水ミネストローネ」など、栄養価バッチリの献立を管理栄養士と一緒に作って食べるという、食について楽しく学べるイベントです。そして驚くべきは、近所の方々がそのイベントのために新鮮な食材を沢山譲ってくれたということです。
これぞ、“地域で助け合う”健康イベントなのではないでしょうか。
これらのイベントは、地域の方が気軽に参加出来るのが1番のポイントで、それがきっかけで食生活を見直したり、食事や栄養、お薬の相談が出来る。この敷居の低さが、薬局、あるいは“薬局栄養士”の大きな強みだと感じました。
レシピの公開
もう一つ、未病への取り組みをご紹介いただきました。それはレシピの公開です。
なの花薬局さんの公開レシピの特徴は、「たんぱく質をとるなら」「食物繊維をとるなら」「カルシウムをとるなら」など、レシピごとに補給できる栄養素が書かれていることです。さらに、栄養価の記載もしっかりされています。
「薬局のホームページに載っている、管理栄養士が書いた“健康レシピ”」には、説得力があり、安心して作ることが出来ます。
是非一度、“健康レシピ”を試してみてはいかがでしょうか。
https://www.nanohana-ph.jp/recipe/
https://cookpad.com/kitchen/39661675
薬局だけど、薬だけじゃない
体操運動や料理教室などのイベントにしても、健康レシピの情報発信にしても、なの花薬局さんの取り組みには、「薬局は、薬をもらうところ」という薬局の枠組みを超えた、生活習慣にアプローチする “未病” へ取り組みが多くあります。
これは、なの花薬局さんが「薬を売るため」ではなく、「その方が“その方らしく生きていく”ため」にお仕事をされているということが明らかに示されています。
そしてその重要な役割を担っているのが、若松氏のような“薬局栄養士”なのです。
西興部村の危機を救った取り組み
西興部村とは、オホーツク北部にある、人口1000人程度の小さな村です。村には医師が1人の小さな診療所がありましたが周囲に薬局はなく、薬は基本院内処方でした。毎日21~22時までかかって調剤する必要があったため、医師の身体的負担が大きく、離職の危機が訪れました。
そこで西興部村は医師の負担軽減のため、様々な薬局運営会社に出店依頼をかけましたが、全てに断られてしまいます。
約200枚/月という処方数では当然採算が取れる見込みはなく、なの花薬局さんも出店を断らざるを得ませんでした。
しかし、なの花薬局さんはそこで諦めず、違う形で協力する方法を考えたのです。
そして、村に掛け合って診療所にFAXを導入し、FAXで薬局に処方箋を送ることによる「院外処方」の仕組みを構築しました。
それによって医師の負担軽減に成功し、離職を防ぐことが出来たのです。
さらに、薬局は近くても25km離れていたため、薬局に取りに行けない患者のため、患者宅に薬を輸送するシステムも整備しました。
さらにさらに、薬局に行かずに薬が処方されることへの患者不安解消のために、西興部村での健康相談会を毎月開催することにしたのです。
健康相談会には薬剤師と管理栄養士が赴くのですが、その管理栄養士の一人が若松氏です。
健康相談会では薬のことだけではなく食事から体の不調まで、まさに健康に関することを何でも相談できる場となっており、健康食品の販売も行なっています。回数を重ねるごとにファンも増えていき、喜びや感謝の言葉をかけられるといいます。
岩見沢から西興部村まで片道約200kmで、月一回の訪問。若松氏は「もう慣れました」と笑顔で話しておられたが、その苦労は大変なものだと推察されます。
小さな村の危機を救い、そして支え続ける なの花薬局、そして若松氏の素晴らしい志に、大変感銘を受けました。
薬局栄養士による在宅訪問
内閣府による「完治が見込めない病気の場合に迎えたい最期の場所」の調査では、実に半数以上が「自宅」という回答結果だったことから、在宅訪問による医療サービスの需要は高いことがわかります。また、今後さらに加速する高齢化に伴って、在宅医療の関心はさらに高くなると考えれています。
在宅訪問栄養指導とは
管理栄養士が行う在宅訪問の医療サービスは「在宅訪問栄養指導」です。
通院・通所が困難で、食事管理が必要な患者・療養者・家族を対象に、管理栄養士が自宅へ訪問し、栄養介入を行います。医療保険・介護保険での算定が設けられています。
この在宅訪問栄養指導の実施回数は増加傾向にあるものの、在宅療養者の77.5%が「低栄養・低栄養の恐れ」である調査結果を考えると、まだまだ十分とは言えません。
薬局栄養士は訪問指導を算定できない
このように在宅訪問栄養指導の供給が不足している状況にも関わらず、現在の保険のルールでは、薬局で訪問指導の算定をとることが出来ないのです。
例外として、医療機関と栄養士会の栄養ケアステーションが契約を結ぶことで、訪問指導を算定することがルール上は可能です。
しかしその方法では、
1.連携医療機関の理解が必要
2.連携医療機関の負担が大きい
3.介入までに時間がかかる
という3つの問題があり、実際に算定することは現実的ではないという現状です。
中でも「介入に時間がかかる」というのは、一刻を争う低栄養患者への栄養指導の場合に、大きな障害となると若松氏は言います。
保険非適用の自社サービス
以上ような保険ルールの関係で、稼働している訪問指導はほとんどが保険非適用の自社サービスです。
保険非適用で課題になるのは、金額です。
訪問指導には、事前準備や移動などで時間がかかるため、その分の人件費をカバーする価格設定が必要となります。
なの花薬局さんでは、一回の訪問指導を採算ギリギリの3000円に設定していますが、それでも患者側が利用したい額を上回ってしまっているのが状況だと話してくれました。
依頼が増えない理由
薬局栄養士の訪問指導が介入に至らない理由について、若松氏は以下のように述べられました
・必要性、緊急性を感じない
・出来ていると思っている
・食事くらいは好きにさせてほしい
・料金が高い、保険が使えない
どれも一筋縄では解決が難しそうな課題です。
そして、次に訪問栄養指導のサービス内容について、詳しくお話ししてくださりました。
訪問栄養指導ではどんなことをしてもらえるのか
薬局栄養士による在宅訪問でできることは、
・今の栄養状態を分析してくれる(一回受けてみようかなと興味がある方など)
・簡単に美味しくできる料理を一緒に作ってくれる(独居で料理が苦手な方など)
・その人に合った栄養補助食品を教えてくれる(食事だけだと栄養が不足しているかもと不安な方など)
・噛む、飲み込む力に合った食べ方を教えてくれる(むせやすくなってきた方など)
・低栄養のチェックをしてくれる(栄養が足りているか不安な方など)
・体質や持病に合わせた、継続的な栄養指導をしてくれる(糖尿病予備軍と言われたが今の食事で問題ないか相談したい方など)
以上が例ですが、「そんなことまで!」という、実に多様な要望に応えてくれます。
そしてその指導は決して押し付けるような提案ではなく、その人の生活背景を理解した上で、様々な角度から提案してくれるのです。
栄養をバランスよくとるためにできることは、食材や調理法を変えることだけではありません。
例えば、
・馴染みの食器に盛り付ける
・誰かのために作ってあげる
・座り方を工夫する
・介助のとき口の手前でスプーンを止める
・便を出す
・ワンプレートにしてみる
・友達と一緒に食べる
など、普通は思い付かないようなアイデアを提案してくれます。
口から食べることはフレイルを防ぐ
フレイルとは、心と体の働きが弱くなってきた虚弱状態のことです。
フレイルの要因は「身体の虚弱」「こころの虚弱」「社会性の虚弱」の3つとされています。
“口から食べる” ことにはまず、栄養をとることによって「身体の虚弱」にアプローチすることが出来ます。
次に、口から食べるこで「おいしい!」という喜びが生まれます。その感情が、「こころの虚弱」にアプローチできるのです。また、誰かと一緒にその感情を共有したり、食事の時間を共有」することで、「社会性の虚弱」にもアプローチすることが出来ます。
このように、口から食べるということには栄養摂取の他に、こころを元気に保つ効果があるとお話ししてくださりました。
多職種連携の重要性
栄養の専門家である管理栄養士、運動の専門家である理学療法士・作業療法士、口腔機能の専門家である歯科医師、全身疾患の管理者である医師、これらの多職種が連携しあうことで、単独では出来なかった医療サービスを提供することが出来る。
その人がその人らしくいるための介入は、多職種で連携することで更に選択肢を広げることが出来るのです。
その人らしく生きていくお手伝いをする
最後に若松氏は薬局栄養士の仕事について、「その方が“その方らしく生きていくお手伝い”ができるお仕事」と締め括られました。
一人ひとり、生活背景や事情が違います
病院にかかるほどではないが、身体の調子や体重の変化について相談したいとき、食事・料理・栄養についてどうしたらいいかわからないときは、一度薬局栄養士に相談してみてはいかがでしょうか。
管理栄養士という専門知識をベースに、様々な選択肢から “その人らしさを尊重した” 解決策を一緒に探してくれることでしょう。
おわりに
この度、鳩が丘歯科クリニックの新たな挑戦である “はとなび” にお力添えいただき、また、素晴らしいご講演をいただいた若松友香氏に、深く感謝申し上げます。
地域連携をより一層強めるパートナーとして、今後とも宜しく御願い申し上げます。
鳩が丘歯科クリニック
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中央バス「幌向線」「緑が丘・鉄北循環線」岩見沢バスターミナルで乗車
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