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第三回はとなび「老いること」

      2023/07/06


"はとなび" とは?https://hatogaoka-dc.jp/はとなび



講師紹介

ご多忙の中“はとなび”第三回の講師を引き受けてくださったのは、岩見沢の地で130年以上、地域医療を支えてきた
医療法人社団北陽会 牧病院の 理事長である牧雄司氏です。

現在、超高齢社会である日本、今後さらに高齢化が加速していきます。
60代、70代がメインとなり、就業可能人口減少など、様々な課題があります。

高齢になっても働くことが出来、充実した生活を送ることが出来る。「健康に老いる」とはどういうことなのか。
精神科医である牧氏の「老い」についての貴重な講演内容を、ご紹介させていただきます。

 

人がなり得る精神変調

“老い”についての前に、まず精神変調についてお話していただきました。

皆さんは、精神変調の種類をいくつ思い浮かべることが出来ますか?

 

・統合失調症

 

・うつ病、双極症(躁うつ病)

 

・不安症群、解離症群、身体症状症群、PTSD

 

・パーソナリティ症群

 

・外因性精神障害


この他にも、さまざまな精神変調があります。

中には目に見えない“こころ”の病気が含まれる、これらの変調を検査、診断し、治療する難しさは計り知れません。

そして日本では、およそ500万人もの方が精神疾患を有すると言われています。

不登校、非行、いじめ、虐待、依存症などのグレーゾーンも含めると、結構な数の方々が精神変調をきたしていると、牧氏はお話ししてくださりました。

有病率を見ても、精神変調は誰もがなり得る、身近な疾患だと知ることができました。

 

 

認知症とは

 

日本の高齢化率(65歳以上の人口割合)は29.1%で世界第1位であり、2位のイタリアの24.1%に5%もの大差をつけています。

全世界で、日本はかなり先立って高齢化が進んでいることがわかります。

そんな超高齢社会の日本においては、就業可能人口の減少など様々な課題がありますが、その課題の一つが、認知症です。

認知症とは、認知機能(記憶、判断力など)が低下して、社会生活に支障をきたした状態を言います。

一口に認知症と言っても、さまざまな要因、病気があると牧氏はお話ししてくださりました。

 

認知症は、どこに行けばいいのか

もしあなたの家族が認知症かもしれない場合、どこに相談しますか?

すぐに決められる人は少ないのではないでしょうか。

 

かかりつけ医

かかりつけ医があれば、そこに相談するのも選択肢の一つです。
ただし、そのかかりつけ医が認知症を診察領域外としている場合、「ここに行ってみてはどうですか?」程度で終わってしまうことが多いのが、現状です。

 

地域包括支援センター

次の選択肢は、地域包括支援センターへの相談です。認知症初期集中支援チームの介入により、認知症サポート医、そして精神科医へと紹介してもらえる可能性があります。

 

神経内科・脳神経外科 ・精神科

認知症を扱う病院への受診としては、精神科・神経内科・脳神経外科があります。

まずは神経内科や脳神経外科を受診し、画像所見による診断を受けて、疑われる疾患の種類を減らしてから、必要に応じて精神科を受診するというのも、選択肢の一つです。

精神科では、付き添いのご家族に、「いつから物忘れが多くなったか、人格の変化はどのようなものか、何が最初に変わったか」などの詳しい問診を行います。このとき、付き添いには身近な家族が複数人いることが望ましいと言います。

また、心理検査、認知機能検査(長谷川式スケール、MMSE)、血液検査によって診断を行います。
胃薬や抗ヒスタミン剤、痒み止めなどが原因の薬剤誘発性随伴症状も視野に調べるため、投薬情報など幅広い情報を必要とします。

また、神経内科・脳神経外科・精神科が連携して対応している「もの忘れ外来」にかかることも有効な選択肢です。

 

様々な検査から診断する

脳神経外科では、頭部の断面図を映像化して、血管のつまりや破裂の発見が可能な「頭部MRI」、血管の様子を3次元で観察することが出来る「頭部MRA」等を用いて、脳内の診断が出来ます。

具体的には、
頭部MRIを撮る事で、外傷のものか、正常圧水頭症、脳腫瘍、脳梗塞などの診断が出来るのです。

小さな脳梗塞(ラクナ梗塞)を観察することも可能で、精神変調が気分によるものなのか、小さな脳梗塞によるものなのかを診断することが可能です。そのためまず神経内科や脳神経外科に行ってから、精神科にかかることが望ましいと牧氏はお話ししてくださりました。

 

 

パーキンソン病になるかは、20年前からわかる

神経内科では、“DATスキャン”という検査をすることで、20年後にパーキンソン病になるかどうかまでわかってしまいます。
この医学はここ10年で発達したもので、今は無症状でも、将来パーキンソン病になると診断することが出来ます。
そのため、予防の必要性を前もって認識することが出来ます。

 

 

アルツハイマー型認知症

アミロイドβは50代から溜まり始め、主観的認知機能の低下が70歳くらい。75歳前後で抑うつ症状が増加し、80代で焦燥感が出てきます。
80代後半では焦燥感もなくなり、身体合併症も増えていきます。

MCI→軽度認知症→中程度→高度→終末期
このようなステージでアルツハイマー型認知症は進行していきます。
ステージは、5年ごとで進行する人も、1年で進行していく人もいて、個人差があります。

アミロイド蛋白は、神経細胞の働きを阻害します。
そのアミロイド蛋白を掃除する、タウ蛋白という物質もまた有害であり、どちらも周辺の細胞を破壊し、脳を萎縮させてしまいます。

アミロイドβがどれくらい蓄積しているかがわかるのが、アミロイドPETという検査です。
現段階では費用がおよそ20万円必要ですが、もし将来、保険が適用されれば、より手軽に検査を受けることが可能になります。

 

レビー小体認知症

60代から以下の症状が順に現れて来ます。
便秘、嗅覚障害、抑うつ症状、レム睡眠行動異常(夜間徘徊)、立ちくらみ、記憶障害、パーキンソン症候群(震えて足が前に出ない。階段を上がれるが、降りれない)、失神(循環器系・膀胱系)、幻視(本人にはリアルに見えている。「否定も肯定もしない」対応が求められるが、それを家族にできるか。)

なぜこんなにも全身に症状が出るかというと、レビー小体が副交感神経(心臓、胃、腸)、交感神経(皮膚、血管)に溜まっていくためです。
どうやってこのレビー小体を減らすかは次世代の研究であり、現在は困難とされています。

 

正しく老いるために

検査によって将来病気になると分かったとして、一体何をすれば良いのか。

病気によって出来ることには差がありますが、共通して言えることは、自分の老後の状態を解像度高く知ることで、「リアルな予防の意識を持つことが出来る」ということではないでしょうか。

 

早期発見で回復

認知症は、早期発見によって回復することがあります。その反面、進行すればするほど回復が難しくなります。
認知症の進行と回復の関係は以下の通りです。


健常 ←→ 主観的認知機能低下 適切に処置をこなうことで20%が健常に戻れる

主観的認知機能低下 ←→ MCI(軽度認知機能障害) 処置によっては戻れるかもしれない

MCI(軽度認知機能障害) ←→ 軽度認知症 年間で5~15%は軽度認知症へと進行してしまう《診断の多くがこの段階》

軽度認知症 → 中程度認知症 → 重度認知症  記憶の回復はない

抗認知症薬を進行した状態の脳に投薬しても、半年間という一時的な効果しか得ることが出来ません。
半年に一回、わずかな認知能力の向上のために投薬するよりも、もっと早期の段階で介入することが重要だと牧氏はお話しして下さりました。

 

 

残存歯と認知症

8020の重要性についてもお話しいただきました。8020とは、80歳のとき、自分の歯が20本あることを言います。

20本以上歯がある人に比べ、歯が数本で義歯なしの場合は、認知症の発症リスクは1.9倍という研究報告があるように、“噛める”ということは脳の認知能力にもプラスの影響があることがわかります。


噛むことには、様々な効果があります↓「よく噛むことはいいことだらけ」

https://hatogaoka-dc.jp/diary-blog/8508

 

糖尿病と認知症

アルツハイマー型認知症

一見関係がないように思える、認知症とアルツハイマー型認知症にも関係があります。
糖尿病がアルツハイマー型認知症を誘発するメカニズムは以下の通りです。

  食べ過ぎ飲み過ぎにより血糖値が上がる 
→ インスリンたくさん分泌される 
→ 常にインスリンが分泌されることで、少なくしていいという信号が出る 
→ インスリンの分泌量が減る 
→ アミロイドβが蓄積する (インスリンには脳内のアミロイドβを除去する機能がある)
→ アルツハイマー型認知症発症

血糖値が正常の人に比べ、糖尿病の人はアルツハイマー型認知症の発症リスクは約2.1倍と言われています。

 

脳血管性認知症

糖尿病によって、脳血管性認知症のリスクも上昇します。

血液中の血糖値が上昇することで、全身の毛細血管が破壊されます。それは脳の血管も例外ではないため、脳血管性認知症を引き起こしてしまいます。

血糖値が正常の人に比べ、糖尿病の人は脳血管性認知症の発症リスクも1.8倍との研究報告があります。

 

糖尿病はなんの病気?

上記の通り、糖尿病は全身の血管を破壊する、血管の病気であり、毛細血管が張り巡らされている「脳・網膜・腎臓・歯周・神経」などの組織に大きなダメージを与えます。

このような重篤な症状を引き起こす糖尿病の原因は、「食べ過ぎ飲み過ぎ・運動不足・ストレス」などの生活習慣であることから、糖尿病は「生活習慣病」と言われます。

生活習慣の改善によって、こんなにも全身に悪影響がある糖尿病を予防することが出来て、認知症にもなりづらくなるならば、改善しない手はないでのはないでしょうか。

また、糖尿病は歯周病とも密接に関連しています。歯磨き習慣、運動習慣を身につけて、食事に気をつかってみませんか?
(↓ 歯周病と糖尿病は仲良し!)

https://hatogaoka-dc.jp/tounyou

 

 

喫煙と認知症の関連

喫煙も悪い生活習慣の一つです。

喫煙をすると、血管が縮み、壊れていきます。その結果、脳内の栄養が滞ることによって認知症のリスクが高まります。

血管が縮むため、高血圧も誘発されます。

非喫煙者に比べ、喫煙者はアルツハイマー型認知症の発症リスクは2.7倍、

脳血管性認知症の発症リスクも2.9倍との研究報告があります。

喫煙は、お金を払って、認知症発症などの膨大な“不健康リスク”を買う行為です。
そのリスクを正しく理解した上で、吸う吸わないの判断することが重要となります。

 

認知症にならないための食事

では認知症にならないために、何をしたらいいのか。

・食べ過ぎず、腹八分にする
・聴力を維持する(補聴器の使用)
・適度な運動

など様々ありますが、牧氏は「食べるべき食材・摂るべき栄養素」について詳しく教えて下さりました。

 

脳は60%が脂質、摂るべき脂質とは

人間の脳は60%が脂質、残りの40%がタンパク質で出来ており、良質な脂質を摂取することが認知機能の維持向上に重要だといいます。

脂質の種類について、どれだけ知っているでしょうか。

まず、なるべく食べない方が良い脂質が「トランス脂肪酸」です。
これは人工的に作られた油で、心筋梗塞などのリスクを高めると言われています。
具体的には、マーガリン、ショートニング、スナック菓子、マヨネーズなどに含まれています。

次に、常温で固体の脂質についても、注意が必要です。
具体的にはバター、牛脂、背脂、チーズなどです。
どれも魅力的に感じてしまいますが、これらは飽和脂肪酸と呼ばれる脂質で、食べ過ぎることで血液中のLDLコレステロールが増加し、その結果、循環器疾患のリスクを増加させるとされています。

どちらも週に一回程度なら大きな問題にならないかもしれませんが、毎日これらを多量に摂取することは健康を冒すリスクが非常に高くなります。

では逆に積極的に摂るべき脂質とはなんなのでしょうか

 

脳の栄養分 BDNF

海馬、皮質の学習・記憶・高度な思考に必須な栄養分のことをBDNF(脳神経栄養因子)といいます。

加齢によってBDNFの血中濃度が下がっていくことや、認知症の人はBDNFの血中濃度低いことがわかっています。

BDNFを増やすと言われている脂質が、以下のような多価不飽和脂肪酸、一価不飽和脂肪酸です。

[多価不飽和脂肪酸]
オメガ3脂肪酸:エゴマ油、亜麻仁油、EPA・DHA(魚)など
オメガ6脂肪酸:リノール酸、大豆油 など
[一価不飽和脂肪酸]
オメガ9脂肪酸:オリーブオイル など

EPA,DHAを魚で取るなら、刺身が1番ですが、煮る・焼くでもあまり下がらないので悪くはないようです。
ただし、揚げると半減してしまうので注意が必要です。
魚の中でも、マグロのトロに豊富に含まれており、1日分のDHAはマグロのトロ2切れで摂ることが出来ます。

オメガ3脂肪酸とオメガ6脂肪酸の比率は、1:1が理想ですが
日本人は、オメガ3脂肪酸:オメガ6脂肪酸=1:4
と、オメガ3が不足している傾向にあります。

 

サーチュイン遺伝子(長生き遺伝子)のスイッチを入れるもの

他にも健康に良い食材はたくさんあります。

長生き遺伝子・若返り遺伝子とも言われる、サーチュイン遺伝子を活性化する食材は以下のようなものがあります。

どれも食べ過ぎは良くなく、バランスよく摂ることが重要だと牧氏はお話しして下さりました。

ナイアシン:鰹節・舞茸・焼きたらこ
エラグ酸:いちご、ブラックベリー、ブルーベリー、クランベリー、ザクロ
レスベラトロール(ポリフェノール):ワイン
EPA,DHA:5g/日の摂取で十分。3.2g/トロマグロ一貫の含有量なので、二貫で十分。
ビタミンC:アセロラ、キウイ、金柑などの柑橘系
ビタミンD:日光浴(紫外線)。シミ予防のため、メラニン色素がない手のひらを太陽に向ける。10分程度でOK
ビタミンD2:きのこ類 取りすぎ注意
ビタミンD3摂取量に注意(過剰摂取により腎障害、カルシウム沈着など):しらす干し、いくら、うなぎ
エルゴチオネイン(強力な抗酸化作用):タモギタケ(生産地:南幌町)、ヒラタケ、エリンギ、シイタケなどの菌糸類

 

ストレスコーピング

ストレスへうまく対処することも、健康でいるためには不可欠です。

ストレスへの対処のことを、ストレスコーピングと言います。

中でも重要なのは、「ありのままの自分を肯定する感覚」である自己肯定感と、
「自分は重要な存在・価値ある存在であるという感覚」である自己重要感です。

そのため、コミュニケーションにおいて相手の自己重要感を満たすような言葉をかけたり行動することで、よりよい関係性を構築することが出来ます。

逆に、相手を下げることで相対的に自分を上げようとする「マウンティング」は悪い自己重要感のひとつで、絶対に行ってはいけません。
例えば、レジでお金を投げつけるように支払う人や、キレやすい人がそれに当たるといいます。

積極的にお互いを思いやり、感謝の気落ちを表現することで、お互いのストレスコーピングを上昇していきましょう。

 

香りの効果

香りには、ストレスコーピングの効果があります

60~80代にかけて嗅覚が低下していく、特に男性は60代からの低下が激しいため、アロマを活用し嗅覚を刺激することで機能低下の予防になるかもしれません。

香りの効能については、以下の通りです。
気になる効能の香りを試してみてはいかがでしょうか?

レモン:交感神経活性化(認知機能の上昇)
ラベンダー:短期記憶力UP
ペパーミント:集中力UP
ヒノキ:海馬のBDNF活性が上昇
ローズマリー:将来の予定を覚えておく展望記憶の有効性あり
コーヒー:いら立ちや怒りを抑えて優しくなれるという報告がある

 

 

まとめ

医療の発展により、自分が何歳ごろにどのような病気になるかもしれない、ということが予測できるようになってきていることを教えていただきました。

そのリスクを下げるためには、毎日の習慣を見直すこと。それは食事であり、運動であり、コミュニケーションであり、生活の中の些細な意識なのではないでしょうか。

また、自分や周りの大切な人の変化に気づき、正しく対処することの重要さもお話しいただきました。

一気に全てを実践することは難しいかもしれませんが、豊かに生きるために、少しずつ生活に取り入れてみませんか?

 

おわりに

この度、鳩が丘歯科クリニックの新たな挑戦である “はとなび” にお力添えいただき、また、素晴らしいご講演をいただいた牧雄司氏に、深く感謝申し上げます。

地域連携をより一層強めるパートナーとして、今後とも宜しく御願い申し上げます。

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