第10回はとなび「言語聴覚士の役割の全て 〜業務内容を知って連携強化しましょう〜」
2024/11/28
"はとなび" とは?https://hatogaoka-dc.jp/はとなび
講師紹介
ご多忙の中“はとなび”第10回の講師を引き受けてくださったのは、札幌麻生脳神経外科病院 リハビリテーション部 技士長を務める、言語聴覚士の源間隆雄氏です。
「 言語聴覚士の役割の全て 〜業務内容を知って連携強化しましょう〜」というテーマでご講演いただきました。
この記事ではその一部をご紹介させていただきます。
源間氏は札幌医療福祉専門学校卒業後、稚内禎心会病院に入職されます。その後、札幌麻生(あざぶ)脳神経外科病院に入職され、現在に至ります。
複数の学会に所属され、その専門性の高さから全国でご講演をされています。所属されている学会は以下の通りです。
・日本口腔ケア学会 評議員
・日本言語聴覚学会
・日本摂食嚥下リハビリテーション学会
・日本栄養治療学会
そんなご多忙な源間氏にご講演いただいたことを大変嬉しく思います。
ではご講演内容を紹介させていただきます。
言語聴覚士とは?
まずは言語聴覚士とはどのような職業なのかを教えていただきました。
言語聴覚士(ST=Speech-Language-Hearing Therapist)は、医療や福祉の現場で「聴覚」「コミュニケーション」「食」に関わる障害を持つ患者に対して支援を行う専門職です。
その対象は新生児から高齢者まで、実に幅広い年齢層となっています。
先天的障害と後天的障害の両方を対象としていますが、特に後天的な障害(脳卒中や事故などによる障害)に対するリハビリが多く、日常生活への復帰を目指すリハビリテーションが言語聴覚士の大きな役割となっています。
勤務先は8割が病院勤務で、1割が訪問介護ステーション、残り1割が補聴器関係・役所・学校(ことばの教室)・放課後デイなどに勤務しています。
そして病院勤務の大部分が、脳外科のリハビリテーションに関係しています。具体的には失語症や構音障害、高次脳機能障害、そして摂食嚥下障害などです。
摂食嚥下(飲み込み)に関連する障害へのサポートはまだあまり知られていませんが、非常に重要な分野であることを教えていただきました。
摂食嚥下障害を持つ方にとっては、正しい姿勢や食べやすい形態の食事が必要であり、言語聴覚士がこれらの調整を担当することで患者の生活の質(QOL)の向上が期待されています。
また、北海道における言語聴覚士の数は少なく、人口約4,000人に1人の割合でしか存在しないとのことです。
その多くは病院で働いており、地域での活動は限られています。しかし、源間先生は、今後ますます地域医療における言語聴覚士の必要性が高まること、多職種連携の強化が求められていると教えてくださいました。
先天的障害の支援
源間先生がまず取り上げてくださったのは、先天的な障害に対する支援です。
言語聴覚士が関わる先天的障害には、脳性麻痺、自閉症、口蓋裂、ダウン症、筋ジストロフィーなどがあります。
これらの障害に対して、発声発語訓練や摂食嚥下リハビリなどの支援を行います。
自閉症の患者には、知的機能やコミュニケーション能力を向上させるための支援が行われます。ダウン症の患者様に対しては、知的機能や構音、音声の支援を行います。
リハビリテーションと環境へのアプローチの重要性
先天的障害を持つお子さんへのリハビリテーションでは、本人へのサポートはもちろん、親や周囲の環境へのアプローチが非常に重要です。療育センターや小児病院での外来リハビリは週1回程度が主流であるため、日常的な関わり方や自主トレーニングの指導にも重点を置く必要があります。
岩見沢市における取り組み
岩見沢市立総合病院では、言語聴覚士が先天的障害を持つお子さんのリハビリテーションを実施しています。
また、より専門的な支援を希望する場合は「北海道立子ども総合医療・療育センター コドモックル」を利用する方もいます。
コドモックルの言語聴覚士による解説動画は、北海道言語聴覚士会の公式ホームページで公開されています。
https://www.st-hokkaido.jp
吃音の理解と支援
吃音は先天的障害の一つであり、特に男性に多い特徴があります。
就学前に改善する場合も多い一方で、周囲の環境を気にすることで悪化することもあります。そのため、周囲の認識と適切な早期治療、当事者同士のピアサポートが重要とされています。
吃音を抱える方への支援として、当事者団体「言友会」ではワークショップやセミナーを開催しています。
北海道における課題
北海道では吃音治療に積極的な言語聴覚士や病院が増えつつありますが、乳幼児や小児の支援を行う専門職は依然として少ない状況です。「一般社団法人 北海道言語聴覚士会」に問い合わせることで、適切な支援につながる可能性があります。
https://www.st-hokkaido.jp
源間先生は北海道言語聴覚士会の理事として20年ほどご活躍されております。
後天的障害
次に、後天的な障害に対する支援について詳しく教えていただきました。
後天的障害には、主に脳卒中や脳外傷、事故などが原因となって生じる失語症や構音障害、高次脳機能障害、そして摂食嚥下障害などがあります。
これらの障害は、患者が事故や病気によって急に日常生活に支障をきたすため、早期のリハビリが必要です。
後天的障害も先天的障害と同様、本人へのリハビリテーションが主ではありますが家族や周囲への環境に対しての指導、復職が必要な場合は職場での業務内容への配慮をしてもらったり配置換えの提案を実施します。
自動車等の運転再開に向けては作業療法士と共に安全に運転が実施できるか、判断力、注意力など高次脳機能検査を実施します。
失語症の特徴と支援方法
失語症は「聞く」「話す」「読む」「書く」の全てに障害が現れる後天的な障害です。
症状は「全失語」「運動性失語」「感覚性失語」の3つに分類され、症状に応じたアプローチが重要です。
例えば、非言語的なアクションや簡潔な言葉を用いる、YES-NOで答えられる質問をするなど、失語症者が意思疎通しやすい工夫が推奨されます。
軽症者には治療的会話を通じて、重症者には呼称訓練(絵に書いているカードを見て言葉を思い出す)や聴理解訓練(複数枚のカードの中から言語聴覚士が言ったカードを選ぶ)を用いた支援が行われます。
構音障害の特徴と支援方法
構音障害は舌や口唇の麻痺による発音の歪みが特徴で、重症の場合、何を話しているのか理解するのが難しくなります。一方で、読み書きは問題ありません。
アプローチとしては、口腔運動訓練や発声訓練、文章音読訓練があり、重症者には代償手段(筆談やコミュニケーションボード)の使用が提案されます。
構音障害はしばしば失語症と混同されます。
喋りだけに障がいがあるのが構音障害で、言語自体の障がいが失語症というイメージです。
そのため、構音障害に有効な筆談やコミュニケーションボードは失語症には意味がないので注意が必要です。
摂食嚥下障害への支援
次に、摂食嚥下障害です。
摂食嚥下障害は老嚥や難病、低栄養、認知症など様々な疾患が原因で発生します。
言語聴覚士の業務の中で一番ニーズが高い業務が摂食嚥下障害です。
間接嚥下訓練・直接嚥下訓練、口腔ケア・食事環境調整、食事姿勢調整・食形態調整、栄養ケアなど多岐に亘る項目を多職種と共に調整しています。
摂食嚥下障害を患った有名人に、周富徳さんが挙げられます。
苺が大好きな周富徳さんが、摂食嚥下障害のために最期まで「苺を食べたい」という願いを叶えられなかったそうです。このような悲しい最期を迎える方を一人でも減らすために、啓蒙活動や専門的な支援を行う必要があると源間先生は教えてくださいました。
また、源間先生はご家族のエピソードもお話しくださいました。気管切開をされていたお父様に、最期のワンスプーンとしてハーゲンダッツを食べてもらったときは、最高の笑顔だったとのことです。
このようなご経験をもとに、摂食嚥下障害の方々に寄り添う支援をされていることに大変感銘を受けました。
臨床での言語聴覚士への依頼内容
次に、実際の臨床での言語聴覚士への依頼内容を教えていただきました。
医療現場での人員不足から、多岐にわたる依頼が寄せられます。
管理栄養士、看護師、歯科衛生士や歯科医師など、多職種と連携する際のハブの役割を言語聴覚士が担っておられること、大変素晴らしいことだと感銘を受けました。
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- 食事介助への協力(マンパワーとしても重要)
- 経口摂取の可能性評価
- 食形態の見直し(管理栄養士との連携が必要)
- 口腔ケアの実施(看護師や歯科衛生士の支援が望ましい)
- 義歯の適合確認(歯科医師の判断が必要な場合がある)
摂食嚥下障害のパターン
摂食嚥下障害には2パターンあります。
球麻痺:延髄外側の障害による発症。重度の場合、外科的介入が必要なケースも。摂食嚥下障害の他に嗄声、めまい、嘔吐、温痛覚障害、運動失調などの症状が出現することがあります。
偽性球麻痺:大脳皮質・皮質下、橋などの脳幹部や大脳の障害による発症。片側か両側かでも違ってきますが、流動食や嚥下補助食で対応可能な場合があります。
訓練とケアの具体例
間接嚥下訓練・直接嚥下訓練、口腔ケア、食事環境調整、食事姿勢調整、食形態調整、栄養ケアなど多岐に亘る項目を言語聴覚士が多職種と共に調整することで、食べる支援を行っています。
「食べたい」という願望は患者にとっては大変大きいものですが、医師と看護師だけではきめ細やかな支援が難しい現状があります。
その実現に言語聴覚士が大きく貢献されていることを学ばせていただきました。
特定の疾患や薬物の影響
脳血管疾患に由来する摂食嚥下障害が非常に多いですが、最近は認知症中期以降の摂食嚥下障害も増えてきております。
特にレビー小体型認知症は早期から摂食嚥下障害を引き起こすリスクあります。
また、薬物性の摂食嚥下障害も増えています。多剤服用患者で、特に向精神薬などを服用していると明らかに嚥下が悪くなることを教えていただきました。
このように、摂食嚥下障害において、言語聴覚士が多職種と連携しながら行う業務の幅広さと重要性を学びました。源間先生は具体的な臨床例や訓練方法、さらには食形態や食事環境の調整、栄養ケアの重要性についても詳しく説明してくださいました。
同じ「食」に関わる医療者として、私たちも患者さんにより良い支援を提供していきたいと思います。
難聴への支援
次に難聴への支援です。
難聴は認知症のリスク因子のひとつであり、中高年から適切に補聴器を使用することで認知症予防にもつながります。重度の場合は人工内耳の手術が必要なこともあります。この判断は耳鼻科医が行います。
また、補聴器選びにおいては、個人の生活環境やニーズに合ったものを選定することが重要であり、特に高齢者夫婦のみの世帯では、電池交換が容易なタイプがおすすめだと教えてくださいました。
さらに、通販で購入できる集音器については、音質が悪く、雑音を拾いやすい傾向があることから、使用を推奨しないとのご指摘もありました。
その方に最適な補聴器を選ぶためには、補聴器センターでの相談や、市町村の補装具費支給制度を活用することが勧められます。
障害者総合支援法による補助が受けられる可能性があるため、制度を活用して経済的負担を軽減しながら適切な機器を使用しましょう。
コミュニケーションの支援
「コミュニケーション支援」の取り組みについても非常に印象的でした。難聴が進行する前に早めの対応するには、周りが気づく必要があります。家族はもちろん、ケアマネージャーなど定期的在宅訪問し会話する職種が気づき、補聴器の使用など適切なアプローチを行うことが重要です。
NPO法人No Limits「北海道吃音・失語症ネットワーク」についてもご紹介いただきました。
札幌市内に事業所を持ち、リモートでの言語訓練や出張サービスを展開されています。特に失語症者は意思疎通が苦手になるため、自宅にこもりがちになるケースが多く、支援の必要性が高いそうです。
代表は言語聴覚士の三谷潤氏で、2023年の北海道言語聴覚士の日記念講演も担当されています。
https://hokkaidokitsuonshitsugo.wordpress.com/北海道吃音・失語症ネットワークについて/
また、札幌には「失語症友の会」というピアサポートの場があり、言語聴覚士がボランティアとして関わりながら支援を行っています。こうした会への紹介を通じて、当事者が社会と繋がる機会を提供する重要性を学びました。詳細は以下のリンクからも確認できますので、ぜひご覧ください。
失語症友の会についてはこちら
食の支援と多職種連携の実践
食の支援では、オーラルフレイルやフレイル段階での適切な介入が、機能改善につながる可能性があるとお話しくださいました。
摂食嚥下障害を防ぐためには、早期からの啓発活動が重要です。
例えば、歯科医院での口腔機能低下症(オーラルフレイル)の発見や薬局での口腔ケアセミナーの開催など、多職種が手を取り合ってフレイル対策を行なっていくことが健康寿命の延伸につながっていきます。
岩見沢では2018年と2019年に、ツルハドラッグ岩見沢駅前店で口腔ケアセミナーが開催された実績もあります。このような地域での取り組みが、摂食嚥下障害の予防に向けた一歩となります。
実践症例の紹介:御年100歳を越える患者様の取り組み</h3
源間先生は実践症例もご紹介してくださいました。
それは、御年100歳を超える患者様が経口摂取を再開したという感動的なお話でした。
当初、経口摂取は難しい状態でしたが、多職種・地域連携を通じ、「食べる楽しみ」を大切にした支援が実を結びました。
患者様の大好きな食べ物やご家族の願いを尊重しながら、姿勢や食形態を工夫。その結果、練り梅と粥ゼリーの梅お粥を茶碗一杯食べることが出来たり、誕生日ケーキを一切れ完食することが出来ました。
患者様とそのご家族の願いを叶えたい、という源間先生の情熱が多職種を巻き込だ素晴らしい事例です。
「経口摂取は無理ですね」ではなく、このような「選択肢を広げるアプローチ」によって食べる楽しみを支える姿勢が大変学びになりました。
セミナー情報
源間先生は摂食嚥下支援に関するセミナーも積極的に開催されています。以下の日程で「完全側臥位法と食形態調整」をテーマにしたセミナーの講師を務められます。
正しい食支援の普及・啓蒙にご尽力されていること、本当に素晴らしいことと尊敬いたします。
- 11月30日:札幌
- 11月3日:徳島県
- 11月24日:兵庫県
また、勉強会や地域での講習についても随時相談を受け付けて下さるそうです。詳細はFacebookやInstagramで確認できるとのことですので、ぜひチェックしてみてください!
謝辞
第10回はとなびでは、言語聴覚士の具体的な業務内容について詳しくお話しいただきました。
言語聴覚士がリハビリ職や医師、看護師だけでなく、歯科医師、歯科衛生士、薬剤師、管理栄養士など、さまざまな専門職との連携が欠かせない職種であり、その中で、「食」のバリアフリー化を進めるために重要な役割をになっていることを学ばせていただきました。
源間先生の「困ったときに言語聴覚士の顔が少しでも浮かぶような機会があれば何より嬉しい」との言葉が印象的でした。
また、「何を知っているかだけでなく、誰を知っているか」が連携のカギになるとお話しいただき、困ったときに相談できる信頼関係を築くことの大切さをお伝えくださいました。
改めまして、この度鳩が丘歯科クリニックの “はとなび” にご協力いただき、また、貴重なご講演をいただいた源間隆雄氏に、心より深く感謝申し上げます。
今後とも、「食」のバリアフリー化を進めるパートナーとして、宜しく御願い申し上げます。
鳩が丘歯科クリニック
〒068-0828 北海道岩見沢市鳩が丘3-1-7
中央バス「幌向線」「緑が丘・鉄北循環線」岩見沢バスターミナルで乗車
「岩見沢市役所前」で下車。バス停から徒歩5分です。
https://www.hatogaoka-dc.jp/